fuskushima_hope_jp
23/36

6721里と山の暮らし1 32 41 5 3 8浜通りを海から離れて内陸に向かうと農の世界が広がる。そこには震災に翻弄されながらも大地から足を離さず、農業や畜産の世界でユニークな試みをしている人たちがいる。相馬市で大野村農園を経営する菊地将兵さんは、震災後、26歳で就農。自宅兼店の建物の1階には採れたての野菜や卵が並ぶ。「相馬ミルキーエッグ」は自然卵養鶏法と完全循環にこだわった卵だ。平飼いで、通常より広い鶏舎で鶏たちはのびのびと動き回っている。飼料は米ぬかや魚のアラなどを知り合いの農家や魚屋から譲り受け、卵と物々交換だ。鶏糞は資源として畑に還す。こうした徹底した循環型の養鶏が評判を呼び、遠方からも注文が入る。卵は殻が硬く、割った卵の黄身はこんもりと盛り上がる。「日本で卵を自給しているといっても餌を輸入していたのでは意味がないし、狭いケージでの飼育もヨーロッパではとっくに廃止されています」地域で完結する循環型の養鶏をやりながら目は世界に向いている。そんな菊地さんの考え方に共感し、畑仕事や養鶏をやってみたいという若者が大勢訪れるが、菊地さんは拒まずに受け入れる。畑仕事を手伝うのでしばらく泊めてほしいと日本を観光中のフランス人がやってきたりもする。「3食付きの宿泊代は無料。畑仕事を朝から6時間手伝ってくれるのでぼくも助かるし、彼らも空いた時間を利用して貸した自転車で観光に回っていました」ろけるような羊肉、試してみる価値は十分にある。こうした旅人たちの新しい拠点となるのが、菊地さんがオープンさせて間もない「ゲストハウス アンブレラ」だ。相馬の田園に立ち、収容できる人数も多く、庭にはサウナもある。知らない者同士の出会いの場を楽しみ、農業体験で大地と触れ合う。それは特別な思い出として残っていくだろう。吉田さんは震災からの復興にあたって葛尾村に何か新たなものを作り上げたいとずっと思っていた。そんな時に国産羊を食べる機会があり、その美味しさを知り、これを自分で生産できないかと考えた。どうせやるなら今まで誰もつくったことのない羊肉を作りたい──そんな思いから自ら考案した飼育法で育てた羊肉を食べた時、今までにない羊肉のその味に「パズルのピースがぴったりはまったような気がした」という。「牧場での飼育ではなく黒毛和牛の技術を応用しています。違いは餌の量。通常の5〜10倍の餌をやる。すると黒毛和牛のようにサシ(赤身の間に網の目のように入る脂肪)が入るんです」メルティシープのネーミングはサシから来ている。とつよし一方、葛尾村では、株式会社牛屋の吉田健さんが新たに羊の飼育を始め、日本では数少ない国産羊肉を生産している。羊肉のブランド名は「メルティシープ」。最高級の羊肉としてひっぱりだこで、年間100頭があっという間に売れるため、200頭に増やす予定だという。1 平飼いの鶏舎で鶏に飼料をやる大野村農園のオーナー、菊地将兵さん。鶏たちはのびのびと歩き回る。2 菊地さんが経営するゲストハウス「アンブレラ」のダイニング。子どもたちに食事を無料で提供する子ども食堂もここで行っている。3 アンブレラのダブルベッドルーム。ベッドルームはほかに女性・ファミリー向け、ドミトリーがある。4 アンブレラの庭に設置されているスチーム式のバレルサウナ。5 大野村農園の自然卵養鶏法による「ミルキーエッグ」。環境から飼料まで徹底的にこだわりぬいた卵だ。6 牛屋の吉田健さんが飼育するサフォーク種の羊。7 牛舎を利用し、和牛の飼育法で羊を飼育している。逆転の発想による新しいチャレンジ。8 吉田健さん。葛尾村で牛を飼育していた吉田さんは原発事故で村が全村避難を決めた際、牛たち世話するために、父親と覚悟を決め、村に残ったという。大野村農園オーナー菊地将兵さんが故郷である相馬を未来へ引き継ぐべく立ち上げた農園。「ミルキーエッグ」や野菜を生産し、自らの店舗でも販売。新しい旅を提案するゲストハウス アンブレラは旅行サイトなどで予約できる。メルティシープ牛屋の吉田健さんが葛尾村で生産するとろけるような肉質の高級羊肉。葛尾村では「葛尾村復興交流館あぜりあ」にある自動販売機で購入することができる。大地とともに鶏と羊から始まる新しい挑戦

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る